新製品を研究開発するときには、「特許調査」がなぜ必要なのか?

「まな板」を新製品の対象として、話をしましょう。

日用品の製造販売をしている中堅メーカーA社の研究所が、 新しい「まな板」の開発を行なおうと考えています。 「表面にカビの生えないまな板」を新製品のコンセプトにしたいと考えています。

この場合のA社の研究所の研究員「山田さん」の 「特許調査についての正しい行動!!」 を以下に時系列的に述べます。(以下の説明では、特許についてのみ述べていますが、 まな板のように一定の形のある物体については、実用新案についても特許と同様に調査が必要です。 従って、以下の文章の中での特許の言葉は、特許と実用新案を含む意味に解釈して下さい。)

ステップ1・・・研究テーマ設定時の特許調査

まず始めに、山田さんは、研究のとっかかりとして、今迄に「表面にカビの生えないまな板」について、どのような特許が出願されているのか?を調査しました。

既に、他の人によって出願された特許の発明と同じ内容を山田さんが研究しても、それについて特許をとることは、当然のことながら、出来ません。しかし、他人の発明を新しい発明のヒントとして利用することは出来ます。

例えば、特許調査の結果、「銀をプラスチックに練りこんだ抗菌性まな板」の特許が、他人によって既に出されていることがわかった場合、この特許をヒントにして「銅を練りこんでも抗菌性が発揮されるのでは・・・」のような発想が容易に浮かびます。

このように、研究を行なう前に、あらかじめその研究テーマに対して特許調査を行うと、他人が行なっている研究との重複防止に役立ちます。又、他人の発明をヒントにして新しいアイデアを思いつく場合もあります。

ステップ2・・・特許出願前の特許調査

山田さんは、ステップ1での特許調査の結果を参考にしながら、プラスチックに数々の添加剤を練りこんで、その抗カビ性を評価した結果、「光触媒としての酸化チタン微粒子を練りこんだプラスチック製まな板」が、高い抗カビ効果を有することがわかりました。

そこで、この発明について特許出願をしようと考えました。

特許出願から特許成立、特許料納付までには、数十万円の費用がかかります。せっかく出願をしても、特許として認められなかった場合、この高額の費用は全くの無駄ガネとなってしまいます。

そこで、光触媒を添加したプラスチック製まな板の特許が他人によって既に出願されているかどうかについて、もう一度、調査を行いました。ステップ1では、抗カビ性まな板についての概念的な調査でしたが、今回は、もっと具体的な、「光触媒としての酸化チタンを練りこんだプラスチック製まな板」についての調査を行いました。

その結果、幸いにして、まだ特許が出願されていなかったので、知的財産部の特許担当員の鈴木さんに特許出願の依頼を行い、特許事務所を通して、めでたく出願が完了しました。

ステップ3・・・新製品販売前の特許調査

山田さんは、プラスチックの材質、酸化チタン配合量等について、さらに研究を重ね、研究が完成したので、その研究成果を研究所長に報告しました。

所長は、この研究成果を大いに気に入り、これを全国規模で販売したときに他社の特許を侵害するか否かについて、至急、特許調査をするように山田さんに命じました。

そこで、山田さんは、知的財産部の鈴木さんに、この新しいまな板についての他社特許抵触性調査を依頼しました。

その結果、販売に当たって特に問題となる他社特許はなかったので、A社は、全国規模で、この「表面にカビの生えないまな板」を販売することとなりました。めでたしめでたしであります。

以上のように、研究スタートから研究完了までの研究と特許の係わりは、概ね、3ステップがあります。

ステップ1は、研究開始にあたっての研究テーマの方向付けを行なう際の特許調査です。研究の入口管理のための特許調査とも言います。

目的は、重複研究の防止、研究のヒントを得る、が主な目的ですが、既に特許として成立している他社特許の把握も重要な目的の一つです。この他社特許の範囲については、研究する範囲からは除外しなければなりません。

例えば、上記の例では、「銀をプラスチックに練りこんだ抗菌性まな板」の特許が既に特許として成立している場合、銀については研究対象からはずさなければなりません。

ステップ2は、研究の成果である発明を特許出願するに当たっての、出願前の特許調査です。出願前先行特許調査とも言います。

この段階では、発明が具体化されているので、ステップ1の調査よりも、より具体的な、的を絞った調査を行います。

  

目的は、その発明が特許として認められるか否かの調査です。認められるためには、その発明が、今までに誰も出願していなくて(新規性がある)、かつ、似た特許は出願されてはいるけれども、その似た特許を基にしてこの発明に容易に到達できるものでもない(進歩性がある)、の新規性、進歩性の2点が満たされなければなりません。この、新規性、進歩性の観点からの調査となります。

ステップ3は、プラスチックに練りこむ際のプラスチックと酸化チタンの配合比、その他の添加剤、練りこみの温度等々の実際の製造条件が全て決まった最終段階、つまり新製品として販売する製品の特許調査です。

他社特許抵触性調査、あるいは、特許侵害調査とも言います。

目的は、新製品として販売する製品が、他社の特許の権利を侵害しているかどうかのための調査です。

ステップ1、ステップ2に比べて、網羅的な見落としのない調査が必要となります。一般に、ステップ1、ステップ2は200件〜1000件前後を調査対象件数としますが、ステップ3では、一般に、数千件が調査対象となります。場合によっては、1万件を超えることもめずらしくありません。

又、ステップ3は、特許の権利についての解釈を伴う調査であり、特許法についてのそれなりの知識が要求されます(ステップ2でも、新規性、進歩性判断のためのある程度の特許法の知識が必要)。

侵害している他社特許を見逃して、そのまま新製品として販売したりすると特許侵害で訴えられかねません。

従って、ステップ3の調査は、必ず知的財産部と相談しなければなりません(知的財産部のない企業の場合は、しかるべき特許事務所と相談するべきです)。

企業の知的財産部の特許担当員の業務は種々ありますが、実は、このステップ3の調査業務がもっともやっかいであり、業務時間の多くは、この業務にとられてしまうのが、実情です。

  

ここまで読み進んできた皆さんは、「企業の研究において特許調査が何故必要であるか?」については、既に、理解していただけたものと思います。

要は、営利を目的とする民間企業の研究は、他社、とりわけその企業のライバル企業と、日々、激しい研究競争を行なっているわけですが、特許とはその研究成果を国家の名において法的に保護してくれるものです。

従って、特許(大きく捉えるならば、知的財産全体)での、企業間でのせめぎあいは避けて通れません。「研究と特許とを如何に連動させるか?」ということを考えたときに、「特許調査」は、重要なカギを握ってきます。

特許調査の主な種類としては、上記の3種類ですが、これら以外に、無効資料用調査(情報提供用調査)、技術動向調査(パテントマップ)があります。